2、
それからどのくらいたったろう・・・・・・・・・・空は灰色にくもったまま辺りはどんどん暗くなっていき、すっかり夜になったはずなのに、空いっぱいに広がった分厚い雲が不気味に発光しながらうずをまいている。風もどんどん強まってゆき、ユアンが乱れるマントを直すのをすっかりあきらめたころ、ぽつり、と、大つぶの雨が落ちてきた。
ぽつり・・・・・・・バタバタ・・・・・・!
大きな音をたてて落ちる雨は、あっという間にバケツをひっくり返したように流れてくる。
ザァァァー!
ユアンは、自分の身をかばう物を何ひとつ持たずにずぶぬれになったまま、その場にじっとすわりこんでいた。
風が、ますます強くなっていく。
たたきつける雨は痛いほどで、両足をふんばり、お腹に力を入れてしっかり体を支えていないと、風になぎたおされそうな勢いだ。
ミシミシッ!!!
ふいに、ユアンの目の前で、風にあおられた木がさけた。むざんに引きちぎれた葉が風にあおられ、ばらばらと空を飛ぶ。それに気を取られたユアンは、背後で木々のきしむ音がしていたことにまったく気づかなかった。
そして、少し弱まったと思った風が さらに強く長くふきつけたとき、バリバリっとものすごい音がして、何かがくずれた。
(・・・・・・・・・・・・?)
ふり返ると、目に入ったのは、まるで積み木のようにバラバラとくずれていく小屋。
風に乗ってしまった丸太が、一気に空を飛ぶ。
まっすぐ、ユアンに向かって・・・・・・・・・・・・
(・・・・・・・・・・・・・・・くそっ!)
ユアンはいっしゅん顔をしかめたが、その場を動かなかった。
宙を舞う丸太が、ゆっくりと目前にせまる。
ユアンは、歯を食いしばって、目を閉じた。
(・・・・・・・・・・・・・・・マーテル!!!)
「虎牙破斬!!!」
「レイトラスト!」
「断空剣!」
「月閃空破!」
「・・・・・・・!??」
暴風の中、高らかにひびく勇ましい声と、地面にたたきつけられた木の転がる音。
一体、何が起こったのか・・・・・・・
豪雨と強風で開かないまぶたを持ち上げて見ると、ユアンの目の前に、真っ赤な背中があった。ロイドだ。そのとなりには、コレット、ゼロス、プレセアがいる。
「・・・・・・貴様ら・・・・・っ!」
「ユアン、動くんじゃね〜ぞ!」
ふり向かずにそう言って、ロイドは、次々と飛んでくる木々を楽しそうに打ち落とす。
「まったく・・・・・こりゃあ、高くつくぜぇ!」
ロイドに習ってユアンを守るゼロスに、コレットが笑いながら言った。
「お礼は、ユアンさんがいっぱいくれますよ〜♪」
「なにっ!?」
思わず立ち上がろうとしたユアンを、プレセアが制した。
「あなたが立ち上がれば、樹が折れてしまう確率は100%です」
「ちっ・・・・・・!!」
「飛んでくる物は私たちに任せて、ユアンさんは、しっかりとユグドラシルを守ってください」
やさしい口調でそう言って、プレセアは、にっこりとほほ笑んだ。
やがて、夜が明けるころ・・・・・・・・・・・・・・・
「ふぁ〜・・・・・・・腹へったぁー!!!」
地面にごろりと転がったロイドが、空にのばしたうでをばったりと落として低くうめいた。
「あらしは、どこかへ行っちゃったね♪」
森の向こうから差す光をながめて、コレットがえへへと笑った。しかし、美しい金髪はすっかり乱れ、もつれている。
「オレさま・・・・・・・もう、動けねぇ〜・・・・・・・・・・・」
足元に転がった丸太によりかかってうめくゼロスのとなりで、一人ずつミラクルグミを配っているのはプレセアだ。
「ユアンさん。どうぞ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ミラクルグミを受けとって、しかし、ユアンは鼻で笑って言った。
「・・・・・・・・・・・・礼など言わぬぞ」
「ああ・・・・・・・・・・・オレたちが、勝手にやったことだからな」
もぐもぐとグミを食べながら言ったロイドが、にやりと笑ってユアンを見る。
そこへ、心配そうな顔をしたコレットが割って入った。
「あの・・・・・・ユアンさん。ユグドラシルの様子はどうですか?」
「・・・・・・そうだ・・・・・・マーテル!」
ようやく気がついたユアンは、あわてて立ち上がると、おそるおそる水おけを持ち上げてみた。
朝日を受けてかがやくユグドラシルは、嵐が来る前と少しも変わっていなかった。
「うわあ〜♪ よかったぁ〜♪」
「あったり前だぜ〜。なにしろ、オレさまたちが助っ人に来たんだからよー」
めずらしく、ゼロスが両側のほほを上げて笑った。
「それにしても・・・・・・・」
プレセアは、すっかり形のなくなってしまった小屋のあとを見てため息をついた。
「ユアンさん・・・・・・おきのどくです」
「・・・・・・・・・・・・よけいなお世話だ」
ユアンはしぶい顔をすると、やれやれとため息をついて言った。
「これで、貴様らの居場所がなくなると思ってせいせいしている。できれば、もう二度と、顔もおがまずにすみたいものだな」
「あっ! そういえば!」
「・・・・・・?」
ユアンの話を少しも聞いていないのか、瞳をかがやかせたロイドが大きく手を打った。
「オレさ、最近、オヤジの仕事で、『けんちく』ってヤツの手伝いをしたんだ。自分の手で家を建てるんだぜ!ユアン、おまえん家も、オレが作ってやるよ!」
「・・・・・・・・・・・・なに!?」
とんでもないことを言うな。ユアンの顔は まざまざとそう語っていたが、コレットが、ほほを赤らめて手をたたいた。
「うわぁ♪楽しそうですね!ユアンさん、一生独身じゃさみしいから、女の子が遊びに来やすいように、かわいいお家にしたらどうですか?」
「貴様ら!人の話を聞いているのか!?」
「ま〜ま〜。落ち着きなって」
激怒するユアンのかたをたたいて、ゼロスが言った。
「どっちにしても、樹を守るために住む場所は必要だろ?タダで、しかも全部他人がやってくれるって言うんだ。悪い話じゃないと思うぜ〜?」
「・・・・・・・・・・・・・・・用がすんだら、さっさと消えてくれ!」
ゼロスの手をはらいのけたユアンがそう言うと、なぜか、ロイドが飛び上がって喜んだ。
「よっしゃあ!まかせろ!」
「・・・・・なに?」
言葉を失うユアンの胸にこぶしをおみまいして、ロイドは、明るく笑って言った。
「『全は急げ』ってヤツだ!今から家の企画をねろうぜ!」
「今晩は、眠れそうにありませんね」
「うわ〜♪ じゃあ、野営の準備をしますね〜♪ゼロス、水をくみに行こー♪」
「とほほ・・・・・・まだ働くのかよ〜・・・・・しょ〜がねぇなあー」
「貴様ら!!!私は、帰れと言ったのだ!!!!!だいたいだな・・・・・・・・・・・コラ! まて!・・・・・・・・・・・・」
そのころ、丸太にうもれた通信機から小さな声がもれた。小屋がくずれたショックで、スイッチが入ってしまったのだ。
『・・・・・・ねえ、ユアンさん、本気でおこってるの?』
『フ・・・・・・・・・・・・・・・・・さあ、な』
おしまい♪
20050923
アンナと父様-短いお話『大樹の護人』 |