大樹の護人

1、


「でさ、祭りで酒によった先生が湖に飛びこんじまってさー。ほんっと大変だったんだぜ!」

「そうなんですよー。先生は水が苦手で泳げないし。でも、アイフリードさんが助けてくれたんですよ〜♪」

ロイドとコレットが夢中で話す先には、不思議な形をした小さな箱が置かれていた。そこから、聞きなれたなつかしい声がひびく。

『・・・・・・そうか』

『リフィルさんも災難だったわねぇ』

「大変だったのはアイフリードだぜ。先生、よったら勝手にいせきモード入っちまってさー。父さんと母さんにも見せたかったぜ!」

『うふふふ。町長さんも大変ねぇ〜♪』

箱の向こうから聞こえるのは、明るく笑う母の声。

「ところで、アンナさんたちは、最近どうですか〜?」

コレットがのんびりとたずねると、いつの間にか背後に立っていた人影が、イライラした口調で言った。

「・・・・・・貴様たち、いつまで話しこんでいるんだ。いいかげん、くだらないおしゃべりはやめるんだな」

『あら、ユアンさん。いつも息子がお世話になってます』

「世話などしていない!」

アンナのあいさつにどなり返して、ユアンはロイドたちを見た。

「・・・・こいつらが しょっちゅう勝手に上がりこんで、こっちは迷惑しているんだ。まったく・・・親が親なら、子も子だな」

「なんだよ。イヤならカギぐらいかけとけっつ〜の!」

ロイドがむきになって言い返す。

コレットは、そんな二人を少しも気にしない様子で、再び箱に話しかけた。

「クラトスさん、アンナさん。今日は、そろそろ失礼します。ユアンさん、一人でゆっくりとお話したいみたいです」

「誰がそんなことを言った!」

ユアンのさけびを聞いたクラトスが、苦笑をかくさずに言った。

『・・・・フ。 楽しくやっているようだな、ユアンよ』

「楽しくなどない!うるさいし、じゃまなだけだ!!!」

ますますむきになって声をあらげるユアンに、アンナが笑って言う。

『にぎやかでいいわね〜♪うらやましいわ』

それを聞いたコレットが、あ、とつぶやいて言った。

「そういえば、デリス・カーラーンの住み心地はどうですか?」

『住み心地?そうねえ。住めば都♪ってカンジかなー』

そう答えて、アンナはクスクスと笑った。

かつて2つに分かれていた世界をひとつにもどし、大樹を復活させたロイドたちは、今では、それぞれちがった道を歩んでいた。ロイドとコレットは 世界中に残されたエクスフィアを集める旅に、リフィルとジーニアスは、ハーフエルフが安心してくらせる場所を作るための旅に、プレセアはリーガルの手伝いをしていて、しいなとゼロスは、かつてのシルヴァラントとテセアラがひとつになれるように、神子と大使として世界中を走りまわっていた。

そして、ユアンは、大樹の側に残って成長を見守る道を選び、アンナは、クラトスと一緒にデリス・カーラーンへ渡ったのだった。

「あ、でさ〜、母さん。あのさ〜」

ロイドが さらに話そうとした時、ついにかんにんぶくろのおが切れたユアンが、強引に箱を取り上げて、勝手にスイッチを切ってしまった。

「・・・・・・まったく・・・通信機の存在など、教えてやるのではなかったな。あきもせずに毎日毎日・・・・・・・まるで、たまり場じゃないか」

ぶつぶつと文句を言ってから、ユアンは、ようやく思い出したように言った。

「そういえば、貴様たち、そろそろ帰るんだな。サイクロンが来るぞ」

「サイクロン!?」

サイクロンとは、天気の変化で起こる強い嵐のことだ。それは、世界中の広い場所を気流に乗って移動するので、発生すれば、あちこちで大きな被害をもたらすことになる。

しかし、ロイドは、うれしそうに瞳をかがやかせて言った。

「おお〜っ!!あらしかぁ!楽しみだなぁ!!!怪談しようぜ、怪談!洪水になったら船に乗ろうぜー!!!」

「ロイド、その前に、ユグドラシルとユアンさんを助けなきゃ!」

「あ、そっか。ユアン。おまえ、早くにげろよ」

「・・・・・・・何とんちんかんなことを言っているんだ!!!」

ピントのずれた話を真面目に聞いたユアンが本気でどなる。

「私を誰だと思っている?かつての英雄だぞ。貴様たちの助けなど必要ない!さっさと帰れ!!!」

小屋に残ろうとするロイドとコレットをなんとか追い返したユアンは、ごうごうと吹きつける風を受けながら、どんよりと曇った空を見上げた。

灰色の分厚い雲が、いくえにも重なって頭上へとせまっている。

(・・・・・・・・・近いな)

マーテルを守らなければ。ユアンの頭にあるのは、それだけだった。

ユグドラシルの樹に宿る精霊マーテル。彼女は、かつての恋人の生まれ変わりであり、彼女が望んでいた平和な世界を守る要でもある。

しかし、今の大樹は、ようやくユアンのひざ丈ほどに育った なえ木なのだ。サイクロンがおそってきたら、ひとたまりもないだろう。

ユアンは、水くみ用のおけをさかさにして なえ木の上にかぶせると、その上に、どっかりを腰をおろした。

「・・・・・・マーテル・・・・・・・・・・・・・・・」

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