わが子へのおくりもの

2、


「ちょっと、クラトス。何やってるの?」

アンナは、家にもどって来るなり工作を始めた夫の手元を不思議そうにのぞきこんだ。

「・・・・・・・・・・」

愛しい妻の言葉もまったく耳に入らないのか、クラトスは、もくもくと木の板をけずっている。

一度何かに手をつけると、極めるまで止まらないし、止められないことを知っているアンナは、かたをすくめて笑った。夢中で木をけずる夫の表情が、おさない息子にそっくりだったからだ。

「・・・・・なんだか楽しそうね。できたら見せてね」

それだけ言うと、アンナは台所へと姿を消した。


やがて、アンナが息子のロイドにごはんを食べさせて、おふろにも入れて、ねかしつけるはずが、一緒になってぐうぐう眠っているころ、ようやくクラトスが立ち上がった。

ふと横を見ると、手をのばせば届く場所にサンドイッチと水が置いてある。アンナが置いてくれたのだろうが、まったく気がつかなったクラトスは苦笑した。

ちょうど一口サイズのサンドイッチをひとつ口に放りこんで、となりの部屋へむかう。

「・・・・・アンナ」

「ん・・・・・?」

アンナは、耳元でささやく夫の声で目をさました。とっさにとなりを見ると、ロイドは、すやすやと気持ちよさそうに眠っている。

もう一度夫を見ると、彼はとてもうれしそうに、しかし、どこか心配そうにアンナを見ていた。

アンナは、まだぱっちりと開かない目をこすってたずねた。

「・・・・・出来たの?」

「・・・・・見てくれるか?」

「うん・・・・・・・・・・うわっ!」

急にだき上げられてバランスをくずしたアンナは、あわてて夫の首にしがみついた。

「ちょっと!ロイドが起きちゃうでしょう?」

「かまわぬではないか」

「かまいます!」

たがいに耳元でささやく間に、クラトスは となりの部屋へアンナを連れて行った。

「あっ!」

テーブルの上に置かれた物を見たアンナが小さな声を上げた。

クラトスのうでからするりと降りたアンナは、さっそく、夫の力作を手に取ってみる。 

それは、パン皿ほどの大きさの四角い白い板だった。板には、たてと横がきれいにならんだ小さなあながたくさんあけられている。板の横には、はぎれをより合わせて作ったひもが何本もあった。

アンナは、大きな目をいっぱいに見開いて言った。

「これ、知ってる!アスカードのひも遊びでしょう?すっごくほしかったの!やってみてもいい?」

「・・・・・ロイドに作ってやったのだがな」

「ためしに遊ぶぐらい、いいでしょう?」

ひもを手にしたアンナは、あきれる夫の目の前で、あちこち好きなように通しはじめた。

「もし、私があなたを愛したら〜♪」

すんだ声で鼻歌をつづりながら、アンナは、あっという間に何かに満足したらしく、にっこりと笑って板を持ち上げた。

「見て見て〜!ほら、お船!」

ついさっきまで まっ白いただの板だったものに、見事な船がかいてある。ひもをあなに通すだけで、どんな形も作ることができるのだ。

「うわあ。すっごく楽しい♪ねえ、クラトス。これ、私にもひとつ作ってくれない?」

アンナは瞳をかがやかせて言ったが、クラトスは、面白くなさそうに口のはしを上げて言った。

「・・・・・それは無理だ」

「どうして?」

きょとんと目をまるくした妻にそっと手をのばすと、クラトスは、アンナのかたをやさしく引きよせ、真剣なまなざしで彼女を見つめて言った。

「お前は、ただでさえロイドに夢中ではないか。これ以上、お前の心をうばう物がふえるのは賛成できぬと言っているのだ」

「あら」

アンナはくすりと笑うと、半分本気で言っている夫に いたずらっぽいまなざしを向けた。

「言わせてもらいますけど、愛しい女性をほったらかしにして、ロイドのために夢中でプレゼントを作っていたのは、どこのどなたかしら?」

「・・・・・そうだな」

「そうよ」

そう言って、二人は目を見合わせて笑った。

アンナは、クラトスの首にうでをまわすと、彼の耳元にやさしくささやいた。

「明日・・・・・いっしょに遊びましょう。三人で・・・・・ね♪」




20041231

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