わが子へのおくりもの


「ほらよ。これが、あんたの取り分だ」

ドサリ。

ひとにぎりほどの大きさのふくろがカウンターに置かれた。

背の高い赤毛の男が、無言でふくろを手に取る。

チャリン・・・・・

手のひらに転がったガルドを確かめると、赤毛の男はふくろをカウンターに放り投げた。そして、そのまま、まっすぐ出口へと向かう。

ふくろを受け取った酒場の親父が、男に声 をかけた。

「もっと金になる話はいるか?今晩、パルマコスタへ向かうキャラバンの護衛(ごえい)だ。あんたのうでなら、4日もあれば もどって来れるだろう」

男は答えない。

しんと静まりかえった酒場に、親父のダミ声がひびいた。

「そういえば、あんたは日帰りの仕事しか受けないんだったな。・・・・・それなら3日後に来い。雑貨屋のハンスが、ハコネシアとうげで取り引きするための護衛をさがしていたからな」

「・・・・・よかろう」

背を向けたまま低い声で言うと、男は酒場を出て行った。


うす暗く ほこりっぽい酒場を出ると、外は、まだ明るかった。

見上げると、雲ひとつない青い空のはしが ぼんやりとオレンジ色にそまっている。

しばらく空を見ていた男が歩き始めたちょうどその時、ふわりと風がふいて、正面から赤いひもが飛んできた。

男は、とっさにそれを受け止める。

見ると、ひもは赤ちゃんの指ぐらいの太さで、両方のはしが きれいにまとめて細くかためてあった。何かに使うのだろうが、ベルトにしては短く、見ただけでは、何に使うものなのか分からなかった。

どうしたものかと視線を上げると、目の前に続く道の向こうから、子供をかかえた若い女性がかけてきた。

「すみません!それ、うちの子のです!」

男の前で息を整えると、女性は、ふかぶかと頭を下げた。

子供が赤いひもにむかって手をのばす。男がひもを差し出すと、その子はぎゅっとひもをつかんで、うれしそうに声をあげて笑った。

女性が、ほっとして言う。

「どうもありがとうございました」

「・・・・・いや」

それにしても、このようなひもをどうやって使うのだろう。男が心の中で首をかしげていると、女性がポケットから何かを取り出して子供の手ににぎらせた。

それは、平らな板で出来た木の人形だった。そこにはたくさんのあなが開いていて、明るい色のひもが、あちこち好き勝手に通してあった。

(なるほどな・・・・・)

男は思わず口のはしをあげた。ひもは、子供の大切なおもちゃだったのだ。

その様子を見た女性が、目を細めて笑った。

「あなたにも お子さんがいらっしゃるの?」

「・・・・・なぜ分かる?」

「いま、父親の顔になっていましたもの」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

たしかに、男にはもうすぐ2才になる息子がいたが、そんな顔があるのだろうか。男は一瞬考えた。しかし、それに対しての答えはうまくうかばなかったので、自分が心を引かれた木の人形についてたずねてみる。

「・・・・・それは、なかなか きょうみ深いな」

「ああ、これですか?」

女性は、少し目を丸くすると、にっこりと笑って言った。

「これは、アスカード地方に古くから伝わるおもちゃです。ひもを好きなあなに通すことで、子供の頭と指先を使う練習になるんですよ」

「・・・・・なるほどな」

「せひ、お子さんへ買ってあげてはどうですか?きっと喜んでくれますよ。・・・・・ああ、私はもう行かなくては。それでは失礼します」

そう言ってもう一度頭を下げると、女性は、急ぎ足で去って行った。

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