プーさんのすっぴん生活

2、


「それでは、さっそく、本日の会議内容について説明もうしあげます。え〜と・・・・・見えぬな」

プロネーマは、手に持った資料にこれでもかと顔を近づけて目を細めたが、コンタクトレンズを入れるのを忘れたので、ぼやけて字が読めなかった。

ふと、どこから部屋に入ったのか、プロネーマの部下らしきハーフエルフが現れて言う。

「プロネーマさま。メガネでございます。あと、よろしければ、髪をまとめてはいかがでしょうか」

「お、気がきくではないか。申しわけございません、ユグドラシル様。ほんの少しお待ちください」

「・・・・・あ、ああ」

言葉を失ったままの英雄たちの前で、プロネーマは、あっという間に、おさげメガネっ子に変身した!

ほんわかムードにつつまれる会議室。

素顔のプロネーマは、化粧をした時からは想像もつかないほど、おとなしげで、かわいらしかった。

プロネーマの長いおさげをじっとながめていたユグドラシルが、ほうっとため息をついて言った。

「・・・・・ねえさまみたい」

「女とは、おそろしい生き物よ」

ユアンが、こっそりとつぶやく。

クラトスは何も言わなかったが、心の中では、しきりに首をかしげていた。

(・・・・・アンナも、化粧すれば、ああなるのであろうか・・・・・?)


やがて、会議が終わった。

静かにとびらが開き、まっ先にユグドラシルが部屋を出て、古代英雄たちが後に続いた。そして、一番最後に、おさげのプロネーマがついていく。

「・・・・・」

ユグドラシルは、辺りにいる天使たちのほとんどの視線が、彼の後ろに集中していることに気がついた。

「あっ!」

ふいに、プロネーマが小さな悲鳴をあげた。同時に、バサバサと紙の落ちる音がひびく。

「だいじょうぶですか?」

すぐ近くにいた一人の天使が、急いでかけつけ、落とした資料をひろってくれた。

「・・・・・感謝する」

プロネーマは、いつも通り高飛車に言ってにっと笑ったが、なにしろ顔がかわいらしいので、天使は思わず彼女の顔に見とれてしまい、辺りにいやしムードがただよった。

あちこちにいる天使が、じわじわと彼女の周りに集まってくる。

ユアンが、天使たちにむかって大きな声をあげた。

「仕事をしろ!」

クルシスの幹部に言われては言うことを聞くしかない。天使たちは、いかにも残念そうに何度もふり返りながら、それぞれの持ち場にもどっていった。

その様子を見ていたクラトスが、短いため息をついた。

「・・・・・めいわくな話だな」

「うむ・・・・・まったくだ」

「とんでもない!」

「・・・・・?」

とつぜん、第三者の声が割りこんできた。おどろいた二人がふり返ると、そこには、うっとりと遠くを見つめるレミエルがいた・・・・・。

「レミエル・・・・・どこから現れた?」

クラトスが、感情のこもらない声でたずねる。

「ユグドラシルさまとの謁見(えっけん)の時間が過ぎてもいらっしゃらないものですから、様子を見に来たのです」

ほうっとため息をつくと、レミエルは、建物の奥へと消えるプロネーマに向かって、うやうやしく手をさしのべた。

「・・・・・美しい。あれこそ、長年さがし求めた、私の理想の女性だ・・・・・」

「・・・・・お前な。絶対、やめといた方がいいぞ」

ユアンが口のはしを片方だけ上げて言う。

「フ・・・・・アンナにはかなわぬ」

クラトスが、誰にも聞こえないようにつぶやいた。

きらきらと瞳をうるませて ろうかの果てに視線を飛ばしていたレミエルが、やっと気がついた様子で二人にたずねた。

「あの方のお名前は?見たところ、天使ではないようですが・・・・・配属場所は?」

言葉につまったクラトスが、助けを求めるようにユアンを見た。

ユアンはじっとレミエルを見て、しばらくしてから、重々しい口調でこう言った。

「・・・・・彼女の名前はプー。今日からミトスの世話係になった・・・・・メイドだ」

「プ〜・・・・・かわいらしい名前だ。よし!さっそくお近づきにならなくては!・・・・・お二人とも、私は、これで失礼しますよ」

レミエルが、ほほを赤らめて鼻歌を口ずさみながらプロネーマの後を追って行った。

クラトスが、思いきりユアンの背中をこづいた。

「ユアン!お前・・・・・あやつらの仲が悪いと知っているだろう?」

「仲直りのきっかけになるかもしれんではないか」

ユアンはしれっと言うと、にやっと笑った。

「それに・・・・・おもしろいしな」

「・・・・・どうなっても知らんぞ」

クラトスは、ひたいに片手をあてて空をあおいだ。

「ぎゃぁああああ!」

建物の奥で悲鳴がひびく。それは、まちがいなく、レミエルのものだった。

「あ〜あ。もうバレたのか。つまらん」

ユアンはふんと鼻で笑い、その場から立ち去った。

「そういえば、あやつらだけでなく、あれらも、仲たがいしていたな・・・・・」

あれとは、レミエルとユアンのことだ。

クラトスは、へんそうが得意だったアンナに何度もだまされたのを思い出して、ほんの少しだけ、レミエルに同情した。


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