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「それでは、さっそく、本日の会議内容について説明もうしあげます。え〜と・・・・・見えぬな」
プロネーマは、手に持った資料にこれでもかと顔を近づけて目を細めたが、コンタクトレンズを入れるのを忘れたので、ぼやけて字が読めなかった。
ふと、どこから部屋に入ったのか、プロネーマの部下らしきハーフエルフが現れて言う。
「プロネーマさま。メガネでございます。あと、よろしければ、髪をまとめてはいかがでしょうか」
「お、気がきくではないか。申しわけございません、ユグドラシル様。ほんの少しお待ちください」
「・・・・・あ、ああ」
言葉を失ったままの英雄たちの前で、プロネーマは、あっという間に、おさげメガネっ子に変身した!
ほんわかムードにつつまれる会議室。
素顔のプロネーマは、化粧をした時からは想像もつかないほど、おとなしげで、かわいらしかった。
プロネーマの長いおさげをじっとながめていたユグドラシルが、ほうっとため息をついて言った。
「・・・・・ねえさまみたい」
「女とは、おそろしい生き物よ」
ユアンが、こっそりとつぶやく。
クラトスは何も言わなかったが、心の中では、しきりに首をかしげていた。
(・・・・・アンナも、化粧すれば、ああなるのであろうか・・・・・?)
やがて、会議が終わった。
静かにとびらが開き、まっ先にユグドラシルが部屋を出て、古代英雄たちが後に続いた。そして、一番最後に、おさげのプロネーマがついていく。
「・・・・・」
ユグドラシルは、辺りにいる天使たちのほとんどの視線が、彼の後ろに集中していることに気がついた。
「あっ!」
ふいに、プロネーマが小さな悲鳴をあげた。同時に、バサバサと紙の落ちる音がひびく。
「だいじょうぶですか?」
すぐ近くにいた一人の天使が、急いでかけつけ、落とした資料をひろってくれた。
「・・・・・感謝する」
プロネーマは、いつも通り高飛車に言ってにっと笑ったが、なにしろ顔がかわいらしいので、天使は思わず彼女の顔に見とれてしまい、辺りにいやしムードがただよった。
あちこちにいる天使が、じわじわと彼女の周りに集まってくる。
ユアンが、天使たちにむかって大きな声をあげた。
「仕事をしろ!」
クルシスの幹部に言われては言うことを聞くしかない。天使たちは、いかにも残念そうに何度もふり返りながら、それぞれの持ち場にもどっていった。
その様子を見ていたクラトスが、短いため息をついた。
「・・・・・めいわくな話だな」
「うむ・・・・・まったくだ」
「とんでもない!」
「・・・・・?」
とつぜん、第三者の声が割りこんできた。おどろいた二人がふり返ると、そこには、うっとりと遠くを見つめるレミエルがいた・・・・・。
「レミエル・・・・・どこから現れた?」
クラトスが、感情のこもらない声でたずねる。
「ユグドラシルさまとの謁見(えっけん)の時間が過ぎてもいらっしゃらないものですから、様子を見に来たのです」
ほうっとため息をつくと、レミエルは、建物の奥へと消えるプロネーマに向かって、うやうやしく手をさしのべた。
「・・・・・美しい。あれこそ、長年さがし求めた、私の理想の女性だ・・・・・」
「・・・・・お前な。絶対、やめといた方がいいぞ」
ユアンが口のはしを片方だけ上げて言う。
「フ・・・・・アンナにはかなわぬ」
クラトスが、誰にも聞こえないようにつぶやいた。
きらきらと瞳をうるませて ろうかの果てに視線を飛ばしていたレミエルが、やっと気がついた様子で二人にたずねた。
「あの方のお名前は?見たところ、天使ではないようですが・・・・・配属場所は?」
言葉につまったクラトスが、助けを求めるようにユアンを見た。
ユアンはじっとレミエルを見て、しばらくしてから、重々しい口調でこう言った。
「・・・・・彼女の名前はプー。今日からミトスの世話係になった・・・・・メイドだ」
「プ〜・・・・・かわいらしい名前だ。よし!さっそくお近づきにならなくては!・・・・・お二人とも、私は、これで失礼しますよ」
レミエルが、ほほを赤らめて鼻歌を口ずさみながらプロネーマの後を追って行った。
クラトスが、思いきりユアンの背中をこづいた。
「ユアン!お前・・・・・あやつらの仲が悪いと知っているだろう?」
「仲直りのきっかけになるかもしれんではないか」
ユアンはしれっと言うと、にやっと笑った。
「それに・・・・・おもしろいしな」
「・・・・・どうなっても知らんぞ」
クラトスは、ひたいに片手をあてて空をあおいだ。
「ぎゃぁああああ!」
建物の奥で悲鳴がひびく。それは、まちがいなく、レミエルのものだった。
「あ〜あ。もうバレたのか。つまらん」
ユアンはふんと鼻で笑い、その場から立ち去った。
「そういえば、あやつらだけでなく、あれらも、仲たがいしていたな・・・・・」
あれとは、レミエルとユアンのことだ。
クラトスは、へんそうが得意だったアンナに何度もだまされたのを思い出して、ほんの少しだけ、レミエルに同情した。
完
アンナと父様-短いお話『プーさんのすっぴん生活』 |