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「ボータさま!急いで司令室へおこし下さい!ユアンさまが、およびです!」
心地よい眠りの中、とつぜん鳴った けたたましいベルに目をさますと、悲鳴に近い大きな声がスピーカーから鳴りひびいた。
「・・・・・ユアンさまが?」
ユアン。この一言で、ぼんやりしていた頭が一瞬にしてはっきりとする。私は、ねぼうしたのかと思って、あわててベッドから飛び起きた。
「・・・・・?」
窓を見ると、外は・・・・・まだ暗い。窓辺にかけよって空を見上げる。星の位置を見ると・・・・・
まだ、真夜中ではないかっ!!!
思わずさけびそうになったが、ユアンさまが、じきじきに私をおよびなのだ。もう一度眠るなど、できるわけがない。
私は、急いで服を着がえると、ユアンさまの待つ司令室へ走った。
「ボータか。おそいぞ!」
「はっ。申しわけございません」
司令室に着くと、今か今かと私を待っていたらしいユアンさまが、いらだちをかくせない様子で私をにらみつけた。
(真夜中に、人の眠りをジャマするほどの、大事なことであればよいのだが・・・・・)
私は、ふきんしんだとは思いながら、心の中でそんなことを考えていた。
なぜなら、いつも、いつも、いつも、ユアンさまが、夜中に私をよびだす内容といったら、言葉は良くないが・・・・・ロクなことではないのだ!
案の定、深々と下げた頭をゆっくり上げると、目のはしになみだをうかべ、今にも泣きそうな顔をしているユアンさまがいた・・・・・
「・・・・・いかがされました?」
できるだけ静かにたずねてみると、ユアンさまは、その場に がっくりとひざをおって座りこんでしまった。
「・・・・・ないのだ」
「・・・・・?」
ここで、「は?」などと聞き返してはいけない。それが目上の者に対する礼儀というものだ。
私は、じっと次の言葉を待った。
「・・・・・どこを、さがしても・・・・・ないのだ。ボータ・・・・・お前、昨日の夕方の会議の時、見た覚えはあるか?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「・・・・・何を、さがせばよろしいのでしょうか」
私は、言葉の最後の調子をぐっと下げて言った。言葉じりが上がると聞き返しているように聞こえてしまうからだ。上司の言葉を聞き返すのは出来の悪い自分をアピールしているようなもので、とてもではないが、ほめられることではない。
ユアンさまは協力者を得て少し安心されたらしく、ずいぶんとやわらいだ顔をされて、ぽつりと言った。
「・・・・・指輪だ」
「指輪ですね」
(指輪か・・・・・)
指輪ですね。
そう答えたものの、心の中では、またかという気持ちが、じわじわとわいてきた。
(・・・・・何回目だ?)
そう自分の記憶にたずねてみる。
ユアンさまは、かつての恋人マーテルさまと交わした愛の証として、ちかいの言葉がきざまれた指輪を ご自分の命と同じぐらい大切にされていた。
しかし、どうも最近、やせられたのか、指輪のサイズが合わなくなったらしく、ちょっとしたひょうしに、すぐに落としてしまわれるのだ。
昨日など、目がさめたらなくなっていたと言うので、朝のレネゲード会議を取りやめて、メンバー全員でシルヴァラントベース中をひっくり返してさがしてみたら、夕方になって、ユアンさまのお部屋の洗面所で、ていねいに布でくるまれた状態で発見されたのだった。
・・・・・では、朝一番から全員でさがしましょう。
そう申し上げようとしたところ、なんと、ユアンさまは、おもむろに着がえを始められたのだった。
「・・・・・ユ、ユアンさま?」
「今から、さがす!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
われらのリーダーが、そうおっしゃるのだ。
・・・・・いたしかたない。私は、そくざに非常ベルのスイッチをおした。
「レネゲード!緊急事態発生!全員、エントランスに集合せよ!!」
かくして、深夜から始まった指輪さがしは、東の空が明るくなっても、まだ続いていた。
「ボータさま!北がわの建物からは、発見されませんでした!」
「ボータさま!南がわの建物からは、発見されませんでした!」
次々と飛びこんでくる報告を受けながら、私も、ユアンさまとご一緒に、お部屋の中を すみずみまで調べていた。
「ボータさま!東がわの建物からは、発見されませんでした!あと、各部屋の宝箱が、あらされています。データを調べたところ、犯人は、あの、赤いヤツです!!!」
「ロイドか・・・・・クラトスの息子にしては、ずいぶん ひきょうなヤツだな・・・・・」
ユアンさまは いまいましげにはきすてたが、その視線は、ゆかの割れ目をていねいになぞっている。物が置けそうな場所はすべて調べたので、残された場所は足元だけだ。
(出てきてくれれば、良いのだが・・・・・)
祈りながらも、私は、最悪の場合にどうすれば良いのかを考えていた。
そうして、部屋の両方のすみから始まった指輪さがしは、ちょうど中央あたりで、ユアンさまと私の背中がぶつかって、終わった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ない」
お顔の色を失われたユアンさまは、もう、今にも息がつまって倒れてしまわれそうだ。
アンナと父様-短いお話『想い〜ボータ』 |