想い〜ボータ

1、


「ボータさま!急いで司令室へおこし下さい!ユアンさまが、およびです!」

心地よい眠りの中、とつぜん鳴った けたたましいベルに目をさますと、悲鳴に近い大きな声がスピーカーから鳴りひびいた。

「・・・・・ユアンさまが?」

ユアン。この一言で、ぼんやりしていた頭が一瞬にしてはっきりとする。私は、ねぼうしたのかと思って、あわててベッドから飛び起きた。

「・・・・・?」

窓を見ると、外は・・・・・まだ暗い。窓辺にかけよって空を見上げる。星の位置を見ると・・・・・

まだ、真夜中ではないかっ!!!

思わずさけびそうになったが、ユアンさまが、じきじきに私をおよびなのだ。もう一度眠るなど、できるわけがない。

私は、急いで服を着がえると、ユアンさまの待つ司令室へ走った。


「ボータか。おそいぞ!」

「はっ。申しわけございません」

司令室に着くと、今か今かと私を待っていたらしいユアンさまが、いらだちをかくせない様子で私をにらみつけた。

(真夜中に、人の眠りをジャマするほどの、大事なことであればよいのだが・・・・・)

私は、ふきんしんだとは思いながら、心の中でそんなことを考えていた。

なぜなら、いつも、いつも、いつも、ユアンさまが、夜中に私をよびだす内容といったら、言葉は良くないが・・・・・ロクなことではないのだ!

案の定、深々と下げた頭をゆっくり上げると、目のはしになみだをうかべ、今にも泣きそうな顔をしているユアンさまがいた・・・・・

「・・・・・いかがされました?」

できるだけ静かにたずねてみると、ユアンさまは、その場に がっくりとひざをおって座りこんでしまった。

「・・・・・ないのだ」

「・・・・・?」

ここで、「は?」などと聞き返してはいけない。それが目上の者に対する礼儀というものだ。

私は、じっと次の言葉を待った。

「・・・・・どこを、さがしても・・・・・ないのだ。ボータ・・・・・お前、昨日の夕方の会議の時、見た覚えはあるか?」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「・・・・・何を、さがせばよろしいのでしょうか」

私は、言葉の最後の調子をぐっと下げて言った。言葉じりが上がると聞き返しているように聞こえてしまうからだ。上司の言葉を聞き返すのは出来の悪い自分をアピールしているようなもので、とてもではないが、ほめられることではない。

ユアンさまは協力者を得て少し安心されたらしく、ずいぶんとやわらいだ顔をされて、ぽつりと言った。

「・・・・・指輪だ」

「指輪ですね」

(指輪か・・・・・)

指輪ですね。

そう答えたものの、心の中では、またかという気持ちが、じわじわとわいてきた。

(・・・・・何回目だ?)

そう自分の記憶にたずねてみる。

ユアンさまは、かつての恋人マーテルさまと交わした愛の証として、ちかいの言葉がきざまれた指輪を ご自分の命と同じぐらい大切にされていた。

しかし、どうも最近、やせられたのか、指輪のサイズが合わなくなったらしく、ちょっとしたひょうしに、すぐに落としてしまわれるのだ。

昨日など、目がさめたらなくなっていたと言うので、朝のレネゲード会議を取りやめて、メンバー全員でシルヴァラントベース中をひっくり返してさがしてみたら、夕方になって、ユアンさまのお部屋の洗面所で、ていねいに布でくるまれた状態で発見されたのだった。

・・・・・では、朝一番から全員でさがしましょう。

そう申し上げようとしたところ、なんと、ユアンさまは、おもむろに着がえを始められたのだった。

「・・・・・ユ、ユアンさま?」

「今から、さがす!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

われらのリーダーが、そうおっしゃるのだ。

・・・・・いたしかたない。私は、そくざに非常ベルのスイッチをおした。

「レネゲード!緊急事態発生!全員、エントランスに集合せよ!!」


かくして、深夜から始まった指輪さがしは、東の空が明るくなっても、まだ続いていた。

「ボータさま!北がわの建物からは、発見されませんでした!」

「ボータさま!南がわの建物からは、発見されませんでした!」

次々と飛びこんでくる報告を受けながら、私も、ユアンさまとご一緒に、お部屋の中を すみずみまで調べていた。

「ボータさま!東がわの建物からは、発見されませんでした!あと、各部屋の宝箱が、あらされています。データを調べたところ、犯人は、あの、赤いヤツです!!!」

「ロイドか・・・・・クラトスの息子にしては、ずいぶん ひきょうなヤツだな・・・・・」

ユアンさまは いまいましげにはきすてたが、その視線は、ゆかの割れ目をていねいになぞっている。物が置けそうな場所はすべて調べたので、残された場所は足元だけだ。

(出てきてくれれば、良いのだが・・・・・)

祈りながらも、私は、最悪の場合にどうすれば良いのかを考えていた。

そうして、部屋の両方のすみから始まった指輪さがしは、ちょうど中央あたりで、ユアンさまと私の背中がぶつかって、終わった。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ない」

お顔の色を失われたユアンさまは、もう、今にも息がつまって倒れてしまわれそうだ。

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