おかえりなさい

1、


ガタン・・・・・

静けさをやぶって小屋の入り口が開いた。たてつけの悪い木のとびらが大きな音をたてる。

「おかえりなさい♪」

その人の帰りを今か今かと待っていたアンナが、笑顔をいっぱいにうかべて、入り口に立つクラトスへかけよった。

「・・・・・・・・・・・・無事か?」

けわしい表情を保ったまま、クラトスが低く問う。

「うん。とっても無事よ」

アンナはとてもうれしそうに笑うと、両うでをのばして小さな体を投げかけた。

ぴょんと飛びついてきたアンナをしっかりと支えて、クラトスは、ほっと小さな息をはく。

「・・・・・・・・・・そうか」

「・・・・・・・・・・そうよ」

アンナは目を細めて笑うと、うんと首をのばしてクラトスを見た。

「ねえ、クラトス?」

「・・・・・?」

赤い瞳がなんだと答える。

アンナは、小さく首をかしげてたずねた。

「あなたの国では、家にもどった時にはそう聞くのがふつうなの?」

クラトスはいぶかしむようにまゆをよせたが、すぐに返事をした。

「・・・・・・・・・・いや」

「じゃあ、なんて言うの?」

「・・・・・どうした?」

一体、そのようなことを知ってどうしようというのだ。クラトスはアンナの真意を知ろうと聞き返したが、アンナは、ほほを赤くそめて、どこか不満げに言った。

「・・・・・だって、帰ってくるなり 『無事か?』 なんてたずねられても、あんまりうれしくないもの。まるで、いつ、私に、何かあってもおかしくないみたい・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

クラトスは はっと目を見開くと、ようやく自分の失言に合点がいったらしく、瞳をふせてつぶやいた。

「・・・・・I'm Home」

「え?」

声は聞こえたが、聞き取れなかったアンナが首をかしげる。

「昔は、家にもどるとこう言っていたな。・・・・・天使言語だ。おまえには分かるまい」

クラトスは、どこか申しわけなさそうに言った。

「う〜ん・・・・・」

アンナは大きな瞳をくるりと動かして てんじょうを見つめていたが、しばらくして、きらきらとかがやくまなざしをクラトスへ投げかけて言った。

「ねえ。これからは、帰って来たら、『ただいま』って言ってくれる?」

「・・・・・それは、どういう意味だ?」

「わからない。でも、私たちはそう言うの」

アンナはうれしそうに笑ったが、クラトスは、ますます真剣な顔になって言った。

「・・・・・・・・・・それは、どのタイミングで言うのだ?」

「どのタイミングでも♪」

「・・・・・おまえの言う 『おかえり』 と、前後してもかまわんのか?」

「あ〜、もう!あなたは、なんでもむずかしく考えすぎよ!」

細かい話が苦手なアンナは先に根をあげて返事をするのをやめると、やれやれとため息をついた。

「ようは、『無事か?』って言う代わりに言ってくれたらいいのよ」

「・・・・・そうか・・・・・・・・・・・」

深刻な表情でうなづくと、クラトスは、小さく息をすいこんだ。

アンナの瞳が、ますますうれしそうに輝く。



クラトスのくちびるが、かすかに動いた。










「・・・・・・・・・・・・・・・ただいま」








20050413

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