お父さんが脱がないわけ

1、


「おーい、クラトス。いっしょに温泉に入ろうぜ!」

笑顔でタオルをふりまわしながら、ロイドが走って来た。

ここは導き温泉。日々の戦いのつかれをいやそうと、みんなで連れ立って来たのだ。

ロイドは父親の背中を流してやろうと気をつかって声をかけたが、クラトスは、申しわけなさそうに言った。

「すまないが・・・・・私は、えんりょする」

「なんでだよ〜!親子でナイショごとかよ!」

たちまちふてくされたロイドが言うと、それを見ていたしいなが、いぶかしむように目を細めた。

「そういえば、クラトスは、アルタミラでも その服のままだったねえ・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・」

クラトスが言葉につまる。言われてみれば、確かに、真夏のリゾート地アルタミラで海水浴にさそわれた時も、クラトスは、いつもの服のままで浜辺に立っていた。

一体、何がはずかしいのだろう?何か、かくしたいことでもあるのか?

しいなはそう思ったが、ロイドはショックで何も考えられないのか、子供のように大きな声をあげた。

「母さんにいいつけてやる!」

「なにっ!」

さすがにあせったクラトスがロイドを止めようとしたが、ロイドは、少しはなれた場所でコレットと話しこんでいるアンナのところへ走って行った。

「母さん!父さんが、いっしょにフロに入ってくれないんだぜ!」

「ああ。それはね・・・・・」

アンナは笑顔で説明しようとしたが、必死で何かをうったえかける夫の視線に気づいてため息をついた。

「・・・・・お父さまは、体中にいっぱい傷があってね。中には、私がモンスターになった時にガリッてやったのもあるから、それをあなたに見せたくないのよ」

「・・・・・そうなんだ」

ロイドは、父親の思いやりに感動して瞳をうるませた。

「・・・・・じゃあ、あんたは、後からゆっくり入りなよ。オレ、ゼロスたちと先に入ってくる!」

そう言って、ロイドは小屋の中へすがたを消した。

それを見たクラトスが、ほっとため息をついてアンナに歩みよった。

「・・・・・すまん。助かった」

「別にかくすことないのに。あなたが気にしてるだけで、そんな気にならないわよ」

アンナは、くすくすと笑いながらクラトスのお腹をつかむ。

「こ、こらっ!」

クラトスは、アンナの手をはらいのけて言った。

「・・・・・ロイドに、余計な気をつかわせたくないだけだ!」

「まあ、パーティから外されて、三食おやつがついてお昼寝もできるとなると、太ってもしかたないわよね〜」

アンナがいたずらっぽく笑って言うと、クラトスは、言葉を失ってだまりこんでしまった。

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「ねえ!何か、新しい技を考えない?私との複合技とか!オーバーリミッツしたら、私をしょうかんできるとか!」

アンナが瞳をかがやかせて言ったが、クラトスは、とたんにむずかしい顔をしてぴしゃりと言った。

「お前は、よけいなことを考えなくてもよい!」

「・・・・・もう。私も、ヒマで太っちゃうわよ〜」

アンナがため息をつく。

それを見たクラトスは、ふっと鼻で笑った。

「・・・・・それも良いな」

「なんですって?」

「・・・・・いや。失言だった。取り消す」

生きていたころのアンナは、いつ健康をそこなうのかと心配させるほどやせていて、クラトスは、どうにかして太らせてやりたいと、あれこれ手をつくしたものだった。

しかし、夫の優しい心配りを知らないアンナが、赤い顔でおこりだす。

「クラトスったら!この体を作ったのはゼロスちゃんだって聞いたけど、あなたも、かげで協力していたのね!」

「いや・・・・・私は・・・・・」

アンナは、これまでロイドのエクスフィアに寄生してきたが、最近になって、新しく完成した自分のフィギュアに宿を移した。しかし、なぜか、生きていた時よりもナイスバディ〜になっていて、彼女は、その犯人はクラトスではないかと、ひそかにうたがっているのだった。

「確かに、もう少し肉づきがよくなればいいと思っていたが・・・・・」

「まあ!やっぱり!」

「体型の話は関係ない!」


「・・・・・・・・・・・出て行きにくいな」

「・・・・・・ああ」

小屋の中ですべてのやりとりを聞いてしまったメンバーが、ドアの前でため息をついた。

「早く出て行って、二人を止めてあげようよ〜」

小屋の中にもどったコレットが言う。

「・・・・・だれが行く?」

ジーニアスが言った。

「あんたが行きなよ」

しいなが、ロイドを見て言った。

「お、おれ?やだなぁ・・・・・」

ロイドはそう言いながら、とびらのすき間から外の様子をのぞいて見た。

「あれ?なんか、チュウしてるぜ・・・・・って、あ、クラトスがビンタくらった!・・・・・母さんは・・・・・おこって、どっか行っちまった!」

「・・・・・・・・・・クラトスさん、最悪です」

プレセアが、ぼそりとつぶやいた。

「仕方がない・・・・・」

リーガルが、なぜか自分に責任を感じているように、申しわけなさそうに言った。

「・・・・・ロイドよ。私がパーティからぬけよう。かわりに、今から、彼を入れてやってくれ・・・・・」

「やれやれ。一件落着・・・・・ね」

リフィルが、ため息をついてそう言った。




・・・・・しかし、パーティに加えてもらったクラトスさんが、やせることができたかどうかは、定かではない・・・・・・・・・・・・



20050305

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